車上生活で本を書く 青井硝子のケイトライフ

軽トラック上に家をDIYして車上生活する方法や、住所不定のままお金を稼ぐ方法、小説家になる方法などを記録していきます。普段は川原でBライフ的田舎暮らしをしたり、都会の駐車場にモバイルハウスで生活してます。ノマド生活や肩肘張らない起業に興味ある方はぜひ。

カテゴリー "旅で出会った人たち" の記事

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小淵沢の露天風呂でおじさんに話しかけられた。その2

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彼は、次から次へと物珍しいものを見せてくれた。

「鶏を模した水差し。これも由緒正しきものらしいんだが、由来は忘れてしまった。この年になると、物を忘れてしまって困る」
「さわっていいですか」
「もちろん。そう簡単に壊れるものじゃないから」


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各所に精巧な彫り物が施されており、全体として完成されていた。
一つとして手の抜かれたところがない。

「土と青銅の文化だったんだろうね。縄でつづられた土瓶がこれで、あとは、そうそう、これを見せなきゃ始まらない」

そう言って彼は、奥の部屋に積まれた荷の中から、やけに古びてはいるがしっかりと手入れの行き届いた小物入れを持ってきて、私に見せてくれた。

「これを」


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「なんですか、これ」
「練り琥珀、と言ってね。既に製法の失われた、幻の装飾品と言われている」

彼は、手前の黒っぽい珠を手に取り、蛍光灯の光にかざした。


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とても深い、血のような赤が映る。

「美しいだろう。古代の王族は、そんな宝石を身にまとっていたんだ」

私はその美しさに息をのんだ。
洞窟の炎のように妖しくゆらめくその赤に、目を奪われた。


「作りもののプラスチックと練り琥珀を見分ける方法の一つに、火で焙る、というのがある」

シャッ、と音を立てて胸ポケットから取り出したライターを点ける。そして、その赤い琥珀を目の前で焙り始めた。

「ほら、全く動じないだろう。これを買った時もこうやって焙って確かめたんだ」
「……なんか、すごいですね」

熱くなったその琥珀を灰皿の上で冷ますと、今度は別のものを手に乗せてくれた。


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「これを熱して練り固める、ということまではわかっているのだが、自然物だろう。不純物が混じっている。どうやってその夾雑物を取り除くかまではハッキリとは分かっていないんだ」
「美しいのは昔のものだけ、というわけですね」
「そうだな、ははっ。面白いことをいうじゃないか」


彼はそう一言褒めると、私に先ほどの赤い珠を手渡してくれた。


「お土産その二だ。持っていってくれ」
「えっ、いいんですか。これ、貴重なものなんじゃ……」
「構わない。私は70を越した。もう長くはない。その珠の価値と、裏に流れている物語を知っている人に、預かってもらいたいんだ」
「……」


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私は、見た目よりもずっと重たくなってしまったその珠を、手の平に握り込んだ。



つづく。



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小淵沢の露天風呂でおじさんに話しかけられた。

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八時から露天風呂が半額だというので、くたびれたタオル持って小淵沢の道の駅にある温泉に出かけた。

ふぃー、と露天風呂の奥まったところにあるぬるい湯に浸かりながら体中のこりを解していた、ちょうどその時、

「兄さん、一人?」

話しかけてきてくれる人が現れた。

「ええ、一人ですよ。ここはいいところですね」

笑顔で無難な返しをする。
見たところ、50代前半といった壮年男性。中背だけど、余分な肉はついていない。鍛えているのだろうか?

「いいところでしょう。私もね、世界中回ったけどここが一番いい」
「世界中、ですか?」
「ええ。ちょっと若い頃仕事でね。兄さんもバックパッカーか何か?」
「はい。軽トラックを家みたいに改造して、放浪中です」
「そいつぁ面白い! 若い時の特権だ。よかったら話を聞かせてくれないか?」
「ありがとうございます。でもまだ始めたばっかりなんですよ。それでよければ……」

彼は、膝を叩いて自分のつたない話を喜んでくれた。

そんなかんじでお互いに、あそこは良かったここは面白かったと、湯にあたりそうになるまで話し込んだ。
本をよく読み聞き上手。とても話が合って面白い方だった。

「……でな、その南部鉄器で作られた箸ってのが、風鈴にするとまた綺麗な音色を奏でるんだ」
「へえ、うまいとこに目をつけましたね南部鉄器さん。自分も聴いてみたいです」
「おお、そう言ってくれるか。じゃあ今から家に来ないか?」

え?

家にくる……ってことは、夜九時を過ぎてから今初めて会った見ず知らずの人の家におじゃまする、ってことだよな。
どうしよう。面白そうではあるけれども、かなりリスクが、……正直怖いな。
でもいい人そうだし。
うーん、まあいっか。

「……そうですね、お邪魔させてください」
「おお、そうか。それじゃあ早速行こう。正直、湯に浸かりすぎたかもしれない」
「ええ、私もです」

自分は軽トラックに、彼はフィアットに乗り込んで、五分位の道のりだった。

道中、コンビニに立ち寄ったりアイスを食べたりしたのだが、なぜか彼は自宅の風呂とトイレのことを「ものが多すぎてね、足の踏み場もないのは許してくれ」と弁解していた。
あとなぜか知らないが、私の体つきについてやたら褒めてくれた。

……危ないとは思ったが、いざとなったら体格差で押し勝てるという打算があったことは否めない、とは思う。


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彼、実は50歳などではなく、もうとっくに70を過ぎたお爺さんなのだという。
全くもってそんな風には見えない。
楽しいことして暮らすのが若さの秘訣だ、と言っていたが、それだけなのだろうか。

彼の部屋、2DKアパートに着くと、風呂上りにと勧めてくれたブルーベリーとヨーグルトをいただく。

「ブルーベリージャム、焦がしちゃってね。上澄みの部分はいい感じに出来たんだけど」

そう言いながら、お土産用のジャムも瓶に詰めてくれた。
彼が口にしたのを見届けてから、いただきますをして食べた。
なんだろう、私はちょっと警戒していたのだろうか。


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「色んな品があるだろう。若い時から集めた宝物なんだ」

お仕事、どこに何をしに行っていたんですか? と聞くと、一枚の地図を見せてくれた。

「大体この辺りだね。アブダビの近く。商社だったんだけど、プラント建設でね。妻と一緒に」

やけに妻を強調する。しかし部屋の中に女性の雰囲気を感じない。
聞きはしなかったが、察されたみたいで、

「はは、ちょっと道楽が過ぎてね。今は別居中なんだ。たまに会いに行ってる」

と話してくれた。


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「この箱はね、その近くの昔の宮殿で実際に使われていた掘り出し物なんだ」
「本当ですかすごいですね!」
「ああ、今でも思い出す。仕事は厳しかったけど、やりがいがあったし楽しかったよ。今と違って無限に成長できるような夢があった」
「そう……なんですか」
「ああ、若者には酷な話かもしれないな」
「いえ、そんなことないです。聞かせてください」
「ありがとう。この年になるとね、一人だと寂しいときがあるんだ。人が好きだからね。たまにこうして見ず知らずの人と語り合いたい」


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真鍮製のそれを開ける。
疑っていた自分が情けない。

これから彼に腹を割って話せるような気がした。


つづく

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